新品のシーツをめぐる猫たちの争い

昨年、2年間の闘病の末に父が亡くなった。
和室に布団、というザ・日本人な寝方をしていた父だったが、お腹の手術をして以来、ベッドを使っていた。
そしてこのたび、私が父が使っていた枕とマットレスを引き継ぐことになった。
よくわからないが、なかなか良いものなので捨てるのは忍びないということらしい。
まず、購入した枕専門店が入っているショッピングモールに行き、枕を除菌した上で高さを合わせてもらう。

接客してくれるのはスマートにスーツを着こなした年下のお兄さん。
「立っているのと同じ姿勢になるのが理想なんですよね。どうですか?」
ベッドにあおむけになり、天井を見つめる私。
(どうですか? どうですかと言われても?)
「いいと思います」
「首のところが少し浮いているので…(枕に手を入れて何やら詰める)。どうですか?」
「……いいと思います」
「ベッドは硬いのと柔らかいのがあって。お父さんのは硬いのなんですけど」
硬いベッドと柔らかいベッドに交互に寝て、寝返りの打ちやすさや膝の浮き具合を比べてみる。
「ほんとだ、全然違いますね!」
表情豊かに求められているであろうリアクションを返しつつ、頭の片隅では冷静に私はどうして店員さんにサービス精神を発揮しているんだろうか、と考えている。

とにもかくにも、私の体に合わせた(はずの)マイ枕を手に入れた。
マットレスは私も父と同じ硬いタイプが合っていたようなので、そのまま引き継ぐことになった。
これまでは煎餅布団のような薄っぺらいマットレスとに布団を敷いて寝ていたので、シーツも買い替えた。
シーツ替えは猫にとっては一大イベント。
喜んで埋もれるエル君。

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潜り込むビビちゃん。

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はじまる一戦。
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勝ち取ったり~!
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父の遺品ともいえる(というかまさにそれ)の枕とマットレスを使ってしばらく経つが、父が枕元に立つことはない。
私自身、特段、これで毎日寝ているからと言って感傷に浸ることもない。
モノはモノだ。
でも父が亡くなったことで、結婚も出産も経験していない私は、世界中の人と分かち合える共通の、普遍的な体験を得たのだと思う。
テレビを見ているとき、ご飯を食べているとき、洗濯物を干しているとき、ふとしたときに父のことがよみがえる。
心の中に住んでいるというのはこういうことなのかな、と思ったりする。
この体験は、悪くない。

シーツを買い替えたと母に言ったら、「次は猫の爪でボロボロにならないといいね」と言われた。
ほんとだね~。